(英語の原文:http://www.aichaobang.blogspot.jp/2016/03/mountains.html)
中に穴がある。
開いて、燃えている。
年経っても、何も満たされることはなかった。
世の中の美しいものも満たしてくれなかった。
疾風が通ると、毛無岱の湿地が数え切れない色を表す。
それでも満ちない。全てが傷つく。
火炎の海のように、会津高原に紅葉が踊る
それでも満ちない。全てが傷つく。
男鹿のナマハゲが出刃包丁を振りながら謎の言葉を呼ぶ。
それでも満ちない。全てが傷つく。
仙台で伊達政宗が波乱万丈な人生の話を唱えてくれる。
それでも満ちない。全てが傷つく。
富良野に赤やオレンジ色のトンボが山の背に付き添ってくれる。
それでも満ちない。全てが傷つく。
地獄谷の猿が迎えに来る。珍しがって突く。
それでも満ちない。全てが傷つく。
筑波山の女体山が男体山より高く立ち上がる。
それでも満ちない。全てが傷つく。
秩父、多摩、丹沢、箱根、甲州の美しい山が目の前に現れ、秘境に誘う。坂を登る。曲がった山道を行く。谷や森の暗い処に惚ける。
そんなに綺麗な山でも、土と石である。
そして私は肉体。
だから穴が満ちない。何でも傷つく。
何でも傷つく。涙を流すしかない。
青森で峰と半島に泣いた。
福島で隠れた峡谷に泣いた。
秋田で広漠たる水田に泣いた。
宮城で泉の前に泣いた。
北海道で茂った緑の平原に泣いた。
長野で大雪の中に泣いた。
茨城で地平線まで伸びる道にも泣いた。
関東平原でいくつかの坂と山道にも、谷や暗い処にも。
山だけが聞こえる。
山だけが聞いてくれる。
でも、穴が満ちない。
抱擁も温情もない頃は、
世の中の最も美しい物も満たせない。
いつもは「男が女に」、あるいは「男が女を」の世界に
温情があるはずもないだろう。
男が女を救うはずで、
逆だったら可笑しいと想定している世界である。
山はそう思わないけれど。
山が広い。
優しくて、強い。
相手が自分より小さくて弱くても気にしない。
ただ傍にいってくれ、話を聞いて、真剣な会話をしてくれる。
お互いに学ぶ。
悲しい時も付き合ってくれる。
大きな声で泣いても、長く泣いても、
君の涙を土と雪で受け入れる。
けれども、傲慢と自信たっぷりに来る人ならは潰される。
いづれにしても、「山があなたに」か「山があなたを」と、間違いない。
山はこんなことが好き。
遊びが好きだ。
相手の動きを待たなく、相手に触れる。自分の世界に誘い、取り込み、抱く。
こんなことが好きだから。
山の風が吹いて、抱く。
枝が振って、落ちて、抱く。
土が足を滑らせて、抱く。
クモの巣が顔に貼り付けて、抱く。
フワフワ熊さんが森から出て、ラウラウと鳴いて、抱く。
山が愛情を持つ。
遠方まで伸びた尾根で支える。森の香りで囲む。鳥と風がささやき、心を癒す。
山にとって愛情は相手が「望む」ものも、自分が「持つ」ものではなく。
勝ち取るものでもなく、売り物でも賞でもない。
幸福の点数を取る必要がない。
山の愛情は本物の愛情だ。
誰も忘れずに、愛する。
山は広い。
山は優しい。
山は強い。
人間の女性は
せめて一部が山のようだったら良かったのに。
こんな世界には
温情がないから。
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